偽島10日目

2007年7月13日 偽島
カラン

―それは遠き日の記憶―

七夕。

「たけーにたんざく、たなばた祭り♪
 大いに祝おぅ♪
 ろうそく一本下さいな♪」

家の外には短冊の飾りで彩られた笹の葉。
路には浴衣の子供達が、からんころんと音を立てながら駆けて行く。
手には大きな袋をぶら下げながら。

今日は、年に一度の夏のお祭り。

家を一軒一軒まわり、歌を歌い、何故か蝋燭を貰う。
子供の私にとっては、数か月分のお菓子を
得る為の日でもあり朝から期待に胸を弾ませていた。

 ****

今日だけは、修行もお休み。
緑色の浴衣を着せてもらい、鏡の前で自分の姿を
何度も何度も見ては、顔の筋肉を緩ませていた。

「ねーねー、師匠!!似合いますかー?」

静かに頷かれると、余計に嬉しく思えた。

ところが

しとしと……―――ざぁざぁ。

「――…わ、雨…?」

空に立ち込める暗雲。
地面が黒く染まる。

「これでは、七夕は中止でしょうかねぇ…。」

師匠の声。

「せっかく、楽しみにしていたのに。うーー。」

肩を落として、項垂れる。

           ―――…ロ
          
              ――ケロ
                 ケロケロ


―――…この泣き声はっ!!

雨に誘われて現れるは、アマガエル。
緑色の姿が視界に飛び込む。

「師匠!蛙ですよー!!
 ……くぅぅ…か、可愛い…っ!!」

「ボロブが、悲しそうな顔をしていたから
 励まそうとしてやってきたのかもしれませんよ?」

「…え?
 …そっか、ありがと。

 来年は、一緒に行こうか。」

そっと蛙を一匹掌に取り、笑みを向けた。

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